吾輩は猫段である。名前はまだ無い。
国東(くにさき)半島の両子山(ふたごさん)の麓、廃校になった小学校で生まれた。
なんでも薄暗いところで紙から切り出された事だけは記憶している。吾輩はここで始めて人間というものを見た・・・
猫の足はあれども無きがごとし、どこを歩いても不器用な音のした試しがない。空を踏むがごとく、雲を行くがごとく・・・ 吾輩は平らな段ボールシートのなかに収まって世界中を旅する。そして人の手によって組み立てられ、行きたいところへ行って聞きたい話を聞いて、舌を出し尻尾をふって、髭をぴんと立ててゆうゆうと帰るのみである。
・・・だが、ひとこと言わせて頂くと、一番心地よい場所を探しているだけで、気まぐれな訳ではない・・
吾輩は新年来多少有名になったので、段ボールの身ながらちょっと鼻が高く感ぜらるるのはありがたい。ときどきはテレビに出演したりもする。
吾輩は御馳走も食わないから別段肥りもしないが、まずまず健康で跛にもならずその日その日を暮らしている。鼠は決して取らない。
・・・名前はまだつけてくれないが、欲をいっても際限がないから生涯この教師の家で無名の猫段で終わるつもりだ。
by d-torso「猫段(ねこだん)」
d-torso「猫段」は細密レーザーを使って段ボールを切断加工して制作されるペーパークラフトです。猫部分55個、弁天部分52個、計107個の部品から構成されています。各パーツはシート状の段ボールにレイアウトされており、接着剤やハサミ等をいっさい使用することなく誰にでも簡単に組み立てを楽しんでいただくことができます。